腱膜性眼瞼下垂症

正常なまぶた

上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)を収縮させて、腱膜(膜上に横に広がった腱)を介して瞼板(まぶたの縁にありまぶたの形を維持する芯のようなもの)を持ち上げて、まぶたを開けています。

ふくらはぎの筋肉を収縮させて、アキレスを介してカカトの骨を持ち上げて、つま先立ちしているの同じです。

交感神経が緊張すると、ミュラー筋が収縮して少しまぶたを開けるのを助けています。

大人になってなる(後天性といいます)眼瞼下垂は、上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)が動かかなく病気、ミュラー筋が動かなくなる病気、そして腱膜が瞼板より外れる病気の3種類にわけられます。

一日数千回瞬きしたり、まぶたを無意識に擦るので、ほとんどの後天性眼瞼下垂症は、腱膜が瞼板より外れる腱膜性眼瞼下垂・代償期なのです。

さまざまな不定愁訴の症状を伴いますと、腱膜性眼瞼下垂症と呼びます。


腱膜性眼瞼下垂症・代償期

まぶたを擦る癖(アトピー、花粉症、化粧落とし、コンタクトレンズ使用、泣くくせ、覚醒刺激、汗をかくスポーツなどで)がある方は、まぶたを開けるアキレス腱に相当する腱膜が瞼板より外れてしまいます。まぶたのアキレス腱断裂です。

この状態では、瞳孔の上までまぶたを開けることができ、視野を遮ることはありません。しかし、まぶたを開けるアキレス腱である
腱膜を介してまぶたを開けていないので、次のような努力して開けていることになります。

①上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)が強く収縮するようになるのです。

眼の上奥の上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)の痛み(群発頭痛)、眼精疲労が起きる人がいます。

②腱膜が瞼板より外れているので、上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)の収縮を瞼板に伝えるために、ミュラー筋を収縮させる必要がでてきます。

歯をかみしめたり、舌で歯を外に押すと、歯根膜機械受容器というセンサーが刺激され、交感神経緊張が起こり、ミュラー筋を収縮させることができるのです。

いつも噛みしめている習慣は、歯ぎしり、顎関節症(がくかんせつしょう)、歯周病、を引き起こす可能性があます。噛みしめる筋肉の咬筋が肥大してエラが張り、こめかみの側頭筋に片頭痛が起きる人を多くみます。

③眉毛(まゆげ)を持ち上げる前頭筋(ぜんとうきん)、そして頭皮を後ろへ引っ張る耳の後ろの後頭筋(こうとうきん)を収縮させて、首の後ろの筋肉を収縮させて顎を上げて、まぶたを開けるの助けるようになります。

おでこのシワや、緊張型頭痛や、そして肩こりを生じるようになります。


腱膜性眼瞼下垂症・非代償期
ハードコンタクトレンズを長年使っている人や、まぶたを激しく擦る癖のある人、高齢者では、ミュラー筋が伸びてしまいます。

この状態では、瞳孔の上までまぶたを開け、視野を維持続けることができなくなります。従来は、この状態を眼瞼下垂と呼んでました。


まぶたと脳(青斑核

最近の私達の研究(PLOS ONE)で、ミュラー筋のなかにある機械受容器というセンサーと、覚醒・筋緊張・交感神経緊張をコントールしている青斑核がつながっていることがわかりました。

まぶたを開けて生じる青斑核への刺激は、前頭葉の中でも、意思決定・記憶想起・情動のコントロールをしている腹内側前頭前野を選択的に刺激していました。

まぶたを擦って眠気をさますのは、ミュラー筋機械受容器をこすって、青斑核を刺激しているのです。しかし、擦ると、腱膜は瞼板より外れてしまいます。

腱膜性眼瞼下垂症・代償期の人は、まぶたを強く開けて、ミュラー筋機械受容を強く引っ張って、青斑核を刺激していることになります。

その結果、青斑核が刺激され過ぎて、覚醒の異常(不眠・不安)・筋緊張(身体中が凝る)・交感神経緊張(ドキドキ・手顔の汗・便秘・過活動膀胱・冷え性)などを訴える方もいます。

腱膜性眼瞼下垂症・非代償期の人は、まぶたを開けても、ミュラー筋が伸びているのでミュラー筋機械受容を強く引っ張れなくななっているのです。

その結果、青斑核が刺激しにくく、覚醒の異常(いつも眠い・やる気が起きない)・筋緊張(身体中にちから入らない)・交感神経緊張ができないなどを訴える方もいます。

また、意思決定・記憶想起・情動のコントロールができないと、腹内側前頭前野が刺激でない症状を訴える方もいます。


腱膜性眼瞼下垂症の診断

重り負荷開瞼

特に診断が難しいのは、腱膜性眼瞼下垂症・代償期です。見た目にはちゃんと開いているからです。

まぶたに医療用重り(LidLoadメディカルU&A社製)を負荷して、まぶたを開けられるか診断しています。

噛みしめない状態で、ミュラー筋を収縮させていない状態では、腱膜が瞼板より外れていますと、重り負荷するとまぶたが開けられなくなってしまいます。


脳血流検査(Pocket NIRS HMを使用)
リアルタイム計測http://www.dynasense.co.jp/product_hm.html

この検査は、スポーツ医学などでは使われているものです。まだ、臨床検査道具として認可を受けていないので、信州大学の特任教授として、ヒト倫理委員会の許可を得て実施しております。費用は発生しません。

骨を通る弱い近赤外線(道路を歩いて、太陽より浴びる近赤外線より弱い)を腹内側前頭前野に当てて、浜松フォトニクス社製のセンサーを使って跳ね返って来た近赤外線量を測定します。

まぶたを開けて生じる青斑核への刺激が、意思決定・記憶想起・情動のコントロールをしている腹内側前頭前野をどのように興奮させているかどうかを、血流の変化で診断し、手術方法に反映させます。

手術は、この部を緊張させられない方は緊張させられるように、緊張の強いかたは緊張を和らげるように行っています。

腱膜性眼瞼下垂症の手術
手術は、外れた腱膜を瞼板に固定する手術が基本です。
そして、
①上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)を強く収縮しなくても良くします。
歯をかみしめたりしてミュラー筋を収縮させる必要をなくします。
③眉毛(まゆげ)を持ち上げる前頭筋(ぜんとうきん)、そして頭皮を後ろへ引っ張る耳の後ろの後頭筋(こうとうきん)を収縮させなくても、まぶたを開けられるようにします。
④首の後ろの筋肉を収縮させて顎を上げなくても、まぶたを開けられるようにします。
ミュラー筋機械受容器の感度を落として、青斑核を介する緊張を減らすようにしています。

ミュラー筋を縫合したり、短縮したりして、ミュラー筋機械受容器の感度を上げるようなことはしておりません。
眼瞼痙攣を併発している方には、ミュラー筋の感度をさらに、下げることもしております。
他院での再手術も行っております。

保険診療が適応される場合、両側で、K219 眼瞼下垂症手術 1眼瞼挙筋(腱膜)前転法 7,200点✕2で、3割負担だと、43,200円(手術のみ)+αかかります。

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