まぶたを開け続けるための構造 まぶたを開ける筋肉は5つあります。 1.上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん) これが一番重要なまぶたを上げる筋肉です。自分の意志で収縮する白い速筋線維と、反射的に不随意的に(かってに)収縮する赤い遅筋線維からできています。 この筋肉の先に腱膜(けんまく)という、アキレス腱のように棒状でない、膜状の腱が伸びています。 この腱膜は、深い層は、瞼板(けんばん)という瞼の縁にあるカマボコ板の前に付き、中間層は、瞼板(けんばん)の前の皮ふに付き、浅い層はLTL(下位横走靭帯)という横に走るヒモで折れ反って眼窩隔膜という組織に変わります。 動眼神経という、眼球を動かす神経の興奮で、上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)が収縮して、腱膜(けんまく)が引っ張られると、①瞼板(けんばん)が持ち上がり目が開き、②瞼板(けんばん)の前の皮ふが持ち上がり二重になり、③眼窩隔膜(がんかかくまく)が奥に引かれ、目の上脂肪が奥に引っ込むのです。 この筋肉は、哺乳類以上にならないと存在しません。 2.ミュラー筋 平滑筋を研究していたドイツ人のMueller先生が見つけたのでミュラー筋と呼びます。 上眼瞼では、腱膜の裏で、上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)と瞼板(けんばん)の間に存在します。 下眼瞼では、下直筋の外側にある腱膜に相当する眼瞼腱膜(CPF: CapsuloPalpebral Fascia)の裏で、下眼瞼の瞼板を下に引くような位置に存在します。 上眼瞼挙筋は骨格筋(四肢や体幹の筋肉)で、ミュラー筋は平滑筋(腸などの内臓の筋肉)なのですが、f不思議なことに、この2種類の異質な筋肉が密につながっています。 そして、ミュラー筋は交感神経の緊張で収縮するのです。ストレスが加わって、カッと上眼瞼と下眼瞼を見開くとき収縮しているのはミュラー筋の収縮によるのです。 3.前頭筋(ぜんとうきん) 正確には、後頭前頭筋(こうとうぜんとうきん)と言います。 耳の後ろの後頭部にある後頭筋(こうとうきん)と、おでこのシワを作って眉毛を持ち上げる前頭筋(ぜんとうきん)の2つの部分で成り立っています。 頭皮が動くヒトがいますが、あれは後頭筋が収縮したり弛緩しているのです。後頭筋は頭皮を後ろに引く筋肉なのです。 後頭前頭筋も、自分の意志で収縮する白い速筋線維と、反射的に(かってに)収縮する赤い遅筋線維からできています。前頭筋は、自分の意志でも反射的にも収縮しますが、後頭筋はほとんどの人は自分の意志では収縮できず、反射的に収縮します。 4.上直筋(じょうちょくきん) 眼球を上に回転(上転)させる筋肉です。この筋肉は骨格筋の中でも特殊で、ミトコンドリアが非常に多く、筋収縮のエネルギーとなるATPを供給し続けられるので、収縮しても疲れない筋肉なのです。したがって、眼精疲労は、眼球を動かしても疲れないので、まぶたを持ち上げる上眼瞼挙筋の遅筋線維が疲れることで起きることになります。 上直筋も2つに別れ、内側にあり眼球を動かす眼球層(がんきゅうそう)と、外側にあり動かした眼球をその位置を維持する眼窩層(がんかそう)に別れます。上眼眼瞼挙筋と上直筋は、眼球の奥の方で接着しているので、上直筋を収縮させてもまぶたを2mm開けられると考えられています。 眼球を下に回転(下転)させる筋肉です。 下眼瞼を直接開く筋肉はなく、下直筋の外側にある腱膜に相当する眼瞼腱膜(CPF: CapsuloPalpebral Fascia)を引いて下眼瞼を下方に開きます。この仕組が、哺乳類以下で、上下眼瞼を開ける仕組みなのです。 下直筋も2つに別れ、内側にあり眼球を動かす眼球層(がんきゅうそう)と、外側にあり動かした眼球をその位置を維持する眼窩層(がんかそう)に別れます。 まぶたを開ける時の抵抗組織 まぶたを開けるとき、まぶたの重力と弾性抵抗となる組織があり、力をいれて持ち上げないと開かないのです。 1.表面の皮膚と皮下脂肪 加齢により外側が垂れ下がってきます。皮下脂肪は子供の頃はあまりないのですが、陽を浴びるようになると小さな粒の皮下脂肪が誘導され重くなります。 2.眼輪筋(がんりんきん) 瞼を閉じる筋肉です。バウムクーヘンの輪切りように、瞼裂(けんれつ:上下のまぶたに囲まれた眼球の見える空間)を囲んでいます。 外側を眼窩部、中間部を隔膜部、内側を瞼板部と3つに分けます。 外側ほど反射的・不随意的に収縮する遅筋線維(赤筋線維)が多く、内側ほど速筋線維(白筋線維)が多いのです。 軽い閉瞼や自発する瞬目(しゅんもく:まばたきの意味)は、瞼板部眼輪筋の収縮で起こります。強い閉瞼や痙攣(けいれん)は、眼窩部眼輪筋の収縮で起こります。 3.中央結合組織(Suborbicularis fibroadipose tissue) 眼輪筋と眼窩隔膜の間の組織で、脂肪組織や膜様組織を含みます。 まぶたが腫れぼったくなる原因は、この部が厚くなってもおこります。 4.眼窩隔膜(がんかかくまく) 腱膜の浅層が、下位横走靭帯で折れ帰り、眼窩の上縁に付着しています。 上眼瞼挙筋が強く収縮して、腱膜が強く引かれ、腱膜の浅層の眼窩隔膜が引かれると、その内側にいる眼窩脂肪が奥に引かれ、上眼瞼が窪みます。一生懸命努力してまぶたを開けている人は、夕方になるの目の上が窪み(sunken eyelid)、その分下眼瞼の脂肪が突出してくるのです(baggy eyelid)。 5.下位横走靭帯(かいおうそうじんたい:LTL:Lower-positioned Transvese Ligament) 眼窩骨の内側から眼窩骨の外側の外眥(がいし:めじりのこと)の間に、眼窩隔膜の内側を外下がりに横走する靭帯です。この靭帯が発達しているとまぶたを大きく開けることができないのです。また、まぶたの縁を走っていると、睫毛(しょうもう:まつ毛)は上向けないし、皮膚が折れ畳まれないので二重瞼にならないのです。 上眼瞼と同じように下眼瞼にも、眼窩骨の内側から眼窩骨の外側の外眥(がいし:めじりのこと)の間に、眼窩隔膜の内側を外下がりに横走する靭帯があります。 上眼瞼の下位横走靭帯が発達している人は、下眼瞼にも横走する靭帯が発達していて、上眼瞼が開かない人は下眼瞼も開かなく、細い目になるのです。大きな目の東洋人、白人では、上下眼瞼の横走靭帯は発達していないのです。 この靭帯は外下がりに走っているの、まぶたを開けたとき、上眼瞼では正中よりやや内側が最も開き、下眼瞼では正中よりやや外側が開き、平行四辺形の瞼裂になるのです。 上眼瞼では、上眼瞼挙筋・腱膜、下位横走靭帯、眼窩隔膜で囲まれた空間の脂肪です。 下眼瞼では、下直筋、眼瞼腱膜(CPF)、横走靭帯、眼窩隔膜で囲まれた空間の脂肪です。 眼窩脂肪は褐色脂肪で、目が細く、上下の横走靭帯が発達しているほど眼球の上を多い、眼球を凍傷から守ります。横走靭帯の発達と、目の細さと、眼窩脂肪の位置は、合目的的な関係にあります。 上眼瞼の下位横走靭帯の内側部分に存在する眼窩脂肪は白色脂肪でで、加齢で目の上が窪む(sunken eyelid)ようになると、下眼瞼の脂肪と共に、突出してくる傾向にあります。 6.ウイットナール靭帯(W:Whitnal ligament) 上眼瞼の下位横走靭帯の上で横走するので、上位横走靭帯と呼ばれることもあります。これは上眼瞼挙筋の動きを制限する役割(check ligament)があると考えられています。 下眼瞼にも、同じような役割のロックウッド靭帯(L: Lockwood ligament)があります。 これらの靭帯は,眼球の前の部分にあるので、奥に引かれると、ウイットナール靭帯(W)は眼球を下方へ移動させ、ロックウッド靭帯(L)は眼球を上方へ移動させる役割もあると考えられます。 一重(ひとえ)まぶたと二重(ふたえ)まぶたの違い 一重まぶたの人は弥生人由来、二重まぶたの人は縄文人由来と考えられています。 図1左のように、一重まぶたの弥生人は、寒い大陸より移動してきたので、寒冷に適応するために、まぶたは大きく開かず、まぶたは発熱する眼窩脂肪で覆われ、眼球を凍傷より守ります。弥生人は、顔もも大きく、体も大きいと言われています。 二重まぶたの縄文人は、土着の日本人で、寒冷に適応する必要がなく、まぶたは大きく開き、まぶたは発熱する眼窩脂肪で覆われる必要がありません。 一重まぶたと、二重まぶたの違いをつくっているのは何でしょうか? 図1左のように、一重まぶたの人では、下位横走靭帯が発達していて、腱膜の枝の瞼板の前の皮膚への付着がほとんどないのです。 そのため、まぶたを開けても、大きく開かないし、睫毛(しょうもう、まつげの意味)は上向きません。 眉毛を持ち上げて、下位横走靭帯を含む上まぶた全体を持ち上げないとまぶたが開かないのです。 図2左のように、眉毛の位置は高く、前頭骨の眼窩の骨の形も上に丸くなっていいるのです。 図3左のように、眉毛を、動かないように指で抑えると、まぶたを開けることができません。 図1右のように、二重まぶたの人では、下位横走靭帯は発達していないし、腱膜の枝の瞼板の前の皮膚への付着も多いのです。 そのため、まぶたを開けると、大きく開くし、睫毛は上向きます。 眉毛を持ち上げず、二重の線で上まぶたを折れ畳んで、まぶたを開けているのです。 図2右のように、眉毛の位置は低く、前頭骨の眼窩の骨の形も水平になっているのです。 図3左のように、眉毛を、動かないように指で抑えても、まぶたを開けることができます。 したがって、一重まぶたの人は、いつも眉毛を挙げる後頭前頭筋を収縮させているので、慢性緊張型頭痛やそれに伴う項・肩こりの人が多い傾向になります。 機能的眼瞼形成外科の視点では、眉毛を持ちあげなくても、まぶた開くように下位横走靭帯の外科的処置を行います。 | ![]() |