まぶたを開ける目的

まぶたはなぜ開けるのでしょうか?まぶたを開ける目的は2つあります。

1)視野を確保すること。
2)脳を刺激して、青斑核を介して覚醒すること。

 これまでは、1)しか考えてられていませんでした。まぶた(瞼)は眼球の蓋(目蓋)で、それを持ち上げて、視覚を網膜に到達させるためだと考えられていたのです。しかし、まぶたを開けて、人間にとって重要な視覚刺激を脳に入れても、後頭葉の視覚野は刺激されますが、意識の中枢である前頭前野は刺激されないことが報告されています(Christof Koch, Ph.D.)。

 それでは、まぶたを開けると視覚以外の刺激が脳に入るのでしょうか?

 まぶたを開けると、ミュラー筋機械受容器というセンサーがひっぱられ、そこからでた三叉神経固有感覚という感じられない感覚が、三叉神経中脳路核からギャップ結合を介して青斑核(覚醒・筋緊張・交感神経緊張の中枢)を直接刺激して、前頭前野の中の腹内側前頭前前野(vmPFC: ventromedial prefrontal cortex)を刺激して覚醒するのです(Matsuo K, et al. PLoS One. 2015;10(8):e0134659.)。

 まぶたを擦るのも、このミュラー筋機械受容器というセンサー擦って、覚醒しているのです。ミュラー筋機械受容器が開瞼で伸展されて起きる反射を伸展反射(Stretch reflex)、ミュラー筋機械受容器がまぶたを擦ることで振動されて起きる反射を振動反射(Vibration reflex)と呼びます。

覚醒状態を維持する脳内機序の歴史的変遷

本村[1]によると、覚醒状態を維持する脳内機序は次のようにまとめられている。

1.感覚入力が覚醒をもたらし、感覚の遮断が睡眠をもたらす主経路と考えられていたが[2]、否定された

 MoruzziとMagounは、ネコの脳に選択的な損傷を加えたり、電気的に刺激したりすることによって、感覚伝導路ではなく網様体が、大脳皮質に対する覚醒作用の主要な中継路であるということを示すことで、否定した[3]。
 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、体性感覚(固有感覚を除いた温痛覚・触覚)は、視床を介して感覚野に到達する。感覚神経の一次ニューロンの細胞体は脊髄後根神経節、三叉神経節にある。二次ニューロンの細胞体は、延髄の薄束核、楔状束核にある。三次ニューロンの細胞体は視床の後外側腹側核(VPL核)にある。

 体性感覚のうち体幹の固有感覚神経の一次ニューロンの細胞体は、後根神経節にある。しかし、顔面の固有感覚神経の一次ニューロンの細胞体は、三叉神経節になく、脳幹に入り込み中脳・橋に存在し、巨大な細胞であり、何らかのインターニューロンの役割をしていることを示唆していることは、神経解剖学の不思議の一つであった。

 様々な感覚が入力する吻側延髄腹外側野(RVLM: rostral ventrolateral medulla)を介して、青斑核を刺激する。目覚まし時計の音で、冷たい水で顔を洗ったり、大腿の皮膚を抓ったりして覚醒する経路は存在するが、主経路ではない。

 しかし、まぶたを擦ると一瞬で覚醒する。ギュッと強く閉瞼しても覚醒する。開瞼して、ミュラー筋機械受容器を伸展して生じる三叉神経固有感覚(知覚できない感覚)のギャップ結合を介しての青斑核への入力による腹内側前頭前皮質(vmPFC: ventromedial prefrontal cortex)の興奮が覚醒をもたらす。瞑想で下方視して、三叉神経固有感覚の誘発を減らしてリラックスし、閉瞼して、三叉神経固有感覚の遮断すると睡眠をもたらすのかもしれない[4]。

2.感覚伝導路ではなく網様体(中脳傍正中網様体中心部)が、大脳皮質に対する覚醒作用の主要な中継路であると考えられていた(上行性網様体賦活系(ascending reticular activating system; ARAS)が、否定された

 1949年、MoruzziとMagoun[3]が脳波の研究より脳幹網様体の重要性を示したが、覚醒に必要なニューロンの細胞体が網様体内部にはほとんどなく、軸索が通過しているだけなので、現在は否定的である。

 開瞼でミュラー筋機械受容器が伸展されて生じる三叉神経固有感覚の細胞体は、三叉神経節にはなく青斑核に接した中脳・橋移行部に存在する[5]。

3.上行性覚醒系(ascending arousal system)[6]。
 現在は、このように考えられている。
脳幹のさまざまなレベルで離断を行ったところ、橋の上部(吻側)のレベルでの離断によって脳波は徐波化し、行動上は無反応となった[7]。この結果より、覚醒には橋吻側から中脳尾部にかけての構造(中脳橋被蓋)が、不可欠である。脳神経からの感覚刺激が覚醒に関係しているかどうか調べるために、ネコの左右の脳神経を切断すると、三叉神経を切断するとまぶたは開かず、覚醒は維持できなくなった[8]。

 これは、三叉神経の温痛覚・触覚・固有感覚の神経の中の、開瞼でミュラー筋機械受容器が伸展されて生じる三叉神経固有感覚を運ぶ神経を切断すると、まぶたは開かず、覚醒できなくなることを示している。
 次のA)B)C)がこの上行性覚醒系の主体と考えれられている。

A)モノアミン作動性ニューロン

 中脳橋被蓋に細胞体を持つ青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロン、および背側および正中縫線核のセロトニン作動性ニューロンは、中脳の傍正中網様体と視床下部外側野を通り、大脳皮質に広汎に投射している。

 これらのモノアミン作動性ニューロンの活動は、覚醒時に最も活発で、徐波睡眠中は徐々に減少し、REM睡眠中にはほぼ停止する。
 青斑核は、覚醒制御以外、下行性に脊髄まで投射しており、運動系の促通、感覚のゲーティング、交感神経系の調節などに関与している[9]。

 この青斑核の入力系に、主な入力はthe brainstem nucleus gigantis cellularis (NGC) ,巨細胞性網様体傍核(nucleus paragigantocellularis: PGI)そして、舌下神経前位核(nucleus prepositus hypoglossus: PH)とされている[10]。PGIからはグルタミン酸を介した興奮性入力が[11]、PHからはGABAを介した抑制性入力が[12]青斑核ニューロンの電気活動に影響を与える[13]。

しかし、最近、Matsuoら(2015)[3]は、開瞼によりミュラー筋機械受容器が伸展されて生じる三叉神経固有感覚の細胞体が、ギャップ結合を介して青斑核を刺激する新たな入力系であると報告している。

B)視床下部外側野から生じてそこでA)に合流するヒスタミン、オレキシン、メラニン凝集ホルモンといった伝達物質を含むニューロン群

 これらのニューロンが視床下部外側野を通過する際には、その部位に位置する複数のニューロン群の活動に影響し、これらが大脳皮質に広汎に投射して、上行性覚醒系の投射を増強する。
 ヒスタミン作動性ニューロンに加え、オレキシン、メラニン凝集ホルモンといったペプチドを含有するニューロンがこの部位に分布して、覚醒の調整に関与していることも明らかにされた。
 花粉症の治療薬ののヒスタミン受容体拮抗薬は、覚醒を抑制し眠くする。学生が長期服用すると、成績が下がるという報告もある(J Allergy Clin Immunol. 2007;120 (2):381-7.)。
 最近、ベルソムラ(スボレキサント)というオレキシン受容体拮抗薬が発売され、覚醒させる物質の働きを抑えて、眠くするという睡眠薬がでた。
 メラニン凝集ホルモン作る神経細胞(MCH神経)が、 レム睡眠・ノンレム睡眠の両方の制御に関わっている(J Neurosci. 2014, 34(20): 6896-909.)

C)コリン作動性ニューロン

 前脳基底部(脚橋被蓋核および背外側被蓋核)から生じてそこでA)B)に合流するアセチルコリン作動性ニューロン群等が、覚醒や睡眠に関連してそれぞれ独特のパターンで活動しつつ、視床や大脳皮質のニューロンへの影響を通じて、覚醒状態を維持・調節する機構として考えられている。
 風邪薬などの抗コリン作用のある薬剤は、眠くなることは知られているが、長期に服用すると認知症発症のリスクがあると報告されている(JAMA Intern Med. 2015;175(3):401-7.)。

4.まとめ

 覚醒および脳波の脱同期化に不可欠で、上行性覚醒系の中軸をなすのは、前脳基底部とそこに興奮性の投射を送る青斑核前域および結合腕傍核内側部のニューロン集団だった[14]。

 これが、Matsuoら(2015)[4]の言う、三叉神経固有感覚神経の細胞体とギャップ結合を介してつながる青斑核の領域は腹内側前頭前皮質(vmPFC: ventromedial prefrontal cortex)を刺激して覚醒する経路を含むのかもしれない。

 Matsuoらの研究[3]では、覚醒状態を維持する脳内機序は次のようにまとめられている。右図1のごとく、開瞼で、ミュラー筋機械受容器を伸展して生じる三叉神経固有感覚は、青斑核を刺激する。青斑核は、
腹内側前頭前皮質(ventromedial prefrontal cortex)を刺激して覚醒したり、交感神経を緊張させて手掌発汗させる。そして、下方視で、ミュラー筋機械受容器を伸展をやめると、リラックスすることを示した。

 瞼を開けるという行為は、青斑核を刺激して、覚醒・筋緊張の亢進・交感神経の緊張をもたらす。これは本来、戦うためのものであるが、現代社会では、戦わず、覚醒だけが求められるが、その副産物として、筋緊張の亢進・交感神経の緊張が生じてしまうと考えられる。
 睡眠時、ベル現象(まぶたを閉じると眼球が上を向く)で、眼球が上を向いている軽い覚醒状態となったり、垂直眼球運動が起きると夢をみているのかもしれない。

開瞼は覚醒反応

 臨床で、意識のない患者さんを診察するとき、Glasgow Coma ScaleかJapan Coma Scaleを利用します。いずれも、様々な刺激に対して、開眼することは覚醒反応と考えられている。

  開眼といういうが、視覚刺激は前頭前野を刺激しないので積極的な感覚入力ではなく、ミュラー機械受容器伸展で誘発される三叉神経固有感覚が青斑核を介して前頭前野(腹内側)を刺激する感覚入力なので、開瞼と表現すべきであるのかもしれない。

 しかし、様々刺激で覚醒すると開瞼するのか、開瞼すると覚醒するのかに関しては、両方あり得る。
 目覚まし時計がなると、様々な感覚が入力する吻側延髄腹外側野(RVLM: rostral ventrolateral medulla)が刺激される。吻側延髄腹外側野は青斑核を刺激する。青斑核は動眼神経核を少し刺激するので瞼を開けたくなる。この刺激でまぶたを大きく開けると、ミュラー筋機械受容器が伸展されて、三叉神経中脳路核→青斑核を刺激して覚醒するが、まぶたを開けないでいると、眠ったままになってしまうのである。
図1

1)本村啓介 脳幹網様体賦活系 脳科学辞典DOI:10.14931/bsd.2413 (2014) 

2)Berger H. "Über das Elektroenkephalogramm des Menschen.". Archiv für Psychiatrie und Nervenkrankheiten. 1929;87:527–70.



5)Fujita K, Matsuo K, Yuzuriha S, Kawagishi K, Moriizumi T. Cell bodies of the trigeminal proprioceptive neurons that transmit reflex contraction of the levator muscle are located in the mesencephalic trigeminal nucleus in rats. J Plast Surg Hand Surg 2012:46: 383–388. 

6)Posner JB, Plum F. Plum and Posner’s Diagnosis of Stupor and Coma, fourth edition. Oxford University Press, 2007.

7)Bremer F. Cerveau isole et physiologie du sommeil. C R Soc Biol (Paris) 1935;118: 1235–1242.

8)Roger A, Rossi GF, Zirondoli A () Le roole des afférences des nerfs cràniens dans le mainien de l’ état vigile de la préparation “encéphale isolé”. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1956;8:1–13. 


10)Aston-Jones G , Ennis M , Pieribone VA , Nickell WT , Shipley MT. 
The brain nucleus locus coeruleus: restricted afferent control of a broad efferent network. Science.1986;234(4777);734-7.

11)Ennis M, Aston-Jones G. Activation of locus coeruleus from nucleus paragigantocellularis: a new excitatory amino acid pathway in brain.  J Neurosci.1988;8(10);3644-57. 

12)Ennis M , Aston-Jones G. GABA-mediated inhibition of locus coeruleus from the dorsomedial rostral medulla. J Neurosci.1989;9(8):2973-81.

13)西池 季隆,中村彰治.青斑核 脳科学辞典DOI:10.14931/bsd.1181 (2012)

14)Patrick M Fuller, Patrick Fuller, David Sherman, Nigel P Pedersen, Clifford B Saper, Jun Lu. Reassessment of the structural basis of the ascending arousal system. J. Comp. Neurol. 2011, 519(5);933-56.








































Glasgow Coma Scale 記述は、「E 点、V 点、M 点、合計 点」と表現される。正常は15点満点で深昏睡は3点。点数は小さいほど重症である。
開眼機能(Eye opening)「E」
4点:自発的に、またはふつうの呼びかけで開眼
3点:強く呼びかけると開眼
2点:痛み刺激で開眼
1点:痛み刺激でも開眼しない

言語機能(Verbal response)「V」
5点:見当識が保たれている
4点:会話は成立するが見当識が混乱
3点:発語はみられるが会話は成立しない
2点:意味のない発声
1点:発語みられず

なお、挿管などで発声が出来ない場合は「T」と表記する。 扱いは1点と同等である。

運動機能(Motor response)「M」
6点:命令に従って四肢を動かす
5点:痛み刺激に対して手で払いのける
4点:指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める
3点:痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動(除皮質姿勢)
2点:痛み刺激に対して緩徐な伸展運動(除脳姿勢)
1点:運動みられず

Japan Coma Scale

Ⅰ.覚醒している(1桁の点数で表現)
0 意識清明
1 見当識は保たれているが意識清明ではない
2 見当識障害がある
3 自分の名前・生年月日が言えない

Ⅱ.刺激に応じて一時的に覚醒する(2桁の点数で表現)
10 普通の呼びかけで開眼する
20 大声で呼びかけたり、強く揺するなどで開眼する
30 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼する

Ⅲ.刺激しても覚醒しない(3桁の点数で表現)
100 痛みに対して払いのけるなどの動作をする
200 痛み刺激で手足を動かしたり、顔をしかめたりする
300 痛み刺激に対し全く反応しない

この他、R(不穏)・I(糞便失禁)・A(自発性喪失)などの付加情報をつけて、JCS 200-Iなどと表す。